CFP®×宅建士が解説 / 投資マンション
FP相談で、何がわかるのか
——動く前に、自分の位置を数字で見る
「毎月の返済額は、今のところ変わっていない」。だから大丈夫、と感じているかもしれません。でも、家賃も、金利も、修繕積立金も、買ったときのまま止まってくれるわけではありません。
売るか、持ち続けるか——その前に必要なのは、決断ではなく現在地の確認です。この記事では、FP相談で実際に何が見えてくるのかを、相談が進んでいく順番に沿って追いかけていきます。読み終える頃には、「次に何を確認すればいいか」が、自分の言葉で見えてくるはずです。

まず、今の現在地を確認する
相談は、いきなり「売り時」の話から始まるわけではありません。最初にやるのは、自分の物件について「いくつの数字を、円で答えられるか」を確かめることです。下のチェックリストを、頭の中で答えてみてください。空欄が多いほど、実は現在地が見えていなかった、ということに気づけます。
買ったときの条件
- 購入価格/借入金額
- 当初のローン年数と金利
- 契約時の管理費・修繕積立金
- 契約時の家賃
今の状態
- 現在の借入残高
- 残りのローン年数
- 現在のローン金利
毎月・毎年の収支
- 毎月の収支=家賃収入 −(ローン返済額+管理費・修繕積立金)
- 確定申告での不動産所得
- 固定資産税・都市計画税の年額
将来の条件
- ローン金利が上がったときの、返済額の増え方
- 修繕積立金の改定予定(次はいつ、いくらに)

賃貸管理契約の内容(契約している場合)
- 管理委託料(毎月の管理手数料の割合)
- 原状回復費・入居者募集費用の負担
- サブリースの場合:免責期間・保証賃料の見直し条件
「売ったらいくら残るか」がこのリストに入っていないのは、それが査定を前提とする数字だからです。ここは相談の中で改めて確認する部分なので、まずは手元の書類だけで分かることから埋めていきます。
相談で見えてくる、6つのこと
現在地が見えてくると、相談は「その物件だけ」の話から、少しずつ視野が広がっていきます。相談を通して見えてくるのは、大きく次の6つです。
物件の今後のキャッシュフロー予測
この物件を持ち続けると、これから収支はどう変わっていくのか。契約時から今、そして10年後・その先まで、リスクも込みで並べて見えてきます。
世帯まるごとのお金の流れ
物件単体ではなく、家計全体・ご家族の将来も含めたお金の流れの中で、この物件がどんな位置づけになるのかが見えてきます。
今、持っている商品の中身
投資信託や保険それぞれが、どんな期待リターンとリスク(値動きの幅)を持っているのか。
そして、このまま持ち続けると今後どうなっていくのかが見えてきます。
金融資産の全体像
現金・保険・不動産・有価証券・債券——資産がどこにどれだけ分散しているのか。全体を俯瞰すると、自分の立ち位置と「偏り」が見えてきます。
NISA・非課税枠の使いどころ
使える非課税の枠が、今の資産全体の中でどう活きるのか。無理に使うのではなく、自分の場合はどう位置づくのかが見えてきます。
時間軸と出口
使える非課税の枠が、今の資産全体の中でどう活きるのか。無理に使うのではなく、自分の場合はどう位置づくのかが見えてきます。
STEP③は「商品ひとつひとつ」を見るミクロの視点、STEP④は「資産全体」を見るマクロの視点。同じお金の話でも、近づいて見るのと、引いて見るのとで、気づくことが変わってきます。

物件の今後を、6段階で見る
6つの中でも中心になるのが、「物件の今後のキャッシュフロー予測」です。
ここでは、相談がどう進んでいくのかを、6つの段階で追体験してみましょう。
契約条件をそろえる
売買契約書と返済予定表を開いて、購入価格・借入金額・金利・当初の家賃といった「出発点の条件」を、実際の数字でそろえます。ここがずれると、その先すべてがずれてしまうので、最初にきっちり合わせます。
契約時のお金の流れを見る
購入したばかりの頃、毎月のお金はどう回っていたのか。家賃から返済・管理費・修繕積立金を引くと、当時は手元にいくら残る想定だったのかが見えてきます。
今の月次収支と比べる
同じ計算を「今」でやって、契約時と並べます。家賃が下がり、修繕積立金が上がっていれば、収支は当時より苦しくなっているはず。一般的なケースでは、月2万円台のマイナスになっていることも珍しくありません。ここで「なんとなくの赤字」が、初めて具体的な数字になります。
10年・15年先まで延ばす
今の収支を一点で見るのではなく、10年後・15年後まで線として延ばします。修繕積立金の改定や家賃の下落を織り込むと、この物件が「これからどちらへ向かうのか」が見えてきます。
リスクシナリオを重ねる[ここがPoint]
ここが、一般的な収支表との一番の違いです。
契約書や返済予定表に実際に書かれている条件を使って、金利上昇・空室・修繕積立金の改定・家賃の下落を重ねていきます。「もしこうなったら」ではなく、「この物件の場合、こうなる」という自分ごとの数字で見えてきます。

50年収支で、出口まで見る
最後に、完済やその先まで含めた長期の収支で、この物件の「出口」まで見通します。持ち続けた場合に、生涯でどれだけ残る・どれだけ持ち出すのかが、一本の線で見えてきます。
「持ち続ける」か、「別の運用に回す」か——同じ時間軸で見比べる
このまま持ち続ける
- 毎月の持ち出しを続けながら、ローンは着々と減っていく
- 団信という保険の役割、実物資産としての安心感
- 出口では収益還元法で評価された価格で売却
生涯に残る資産 = 相談で数字が入る
別の運用に回す(前提つき)
- 手放して残る資金+毎月の持ち出し分を、分散されたポートフォリオ(NISAの非課税枠を含む)で運用したら
- 流動性が高く、一部だけ取り崩すこともできる
※「年◎%程度で運用できた場合」という前提での比較
生涯に残る資産 = 相談で数字が入る
資産全体のバランスを見る
第3章の最後で、「この物件は、資産全体の配分として適切な位置にいるか」という問いが出てきました。それを確かめるには、証券口座も含めた資産全体を、一度、地図のように広げてみる必要があります。
まず、引いて全体を見る——資産の「偏り」に気づく
現金・保険・不動産・有価証券・債券。所有者様の資産は、今どこにどれだけ置かれているでしょうか。投資マンションを持っていると、気づかないうちに「不動産」に大きく偏っていることが少なくありません。全体を広げて初めて、その偏りが見えてきます。
資産配分の一例(一般化したイメージ)
投資マンション所有者様のアセットアロケーション例
分散の一例(公的年金GPIFの基本配分・2025年4月〜)※事実・公開情報
※上段は一般化した例です。下段のGPIF基本配分(2025年4月〜、4資産25%ずつ)は公開情報にもとづきます。出典:GPIF「基本ポートフォリオの考え方」。実際の所有者様の配分は相談で確認します。
代表的な指数と並べて、立ち位置を確認する
自分の配分だけを見ても、それが偏っているのか普通なのかは分かりません。そこで、値動きの幅(リスク)とリターンの目安で、代表的な資産がどのあたりに位置するのかを地図にしてみます。そこに「今の所有者様の資産」と、分散の目安として公的年金GPIFを置くと、自分がGPIFと比べてどのあたりにいるのかが一目で見えてきます。
代表的な資産の「立ち位置」(イメージ)
※位置はイメージです(一般化)。GPIF(公的年金の分散配分)を目安に置いています。実際は相談で、所有者様の資産をこの地図に置いて確認します。
市場の「パフォーマンスが低い年」にどこまで下がりうるか——リスク幅の正体
上記のマップで見たとおり、期待リターンが高い配分ほど、リスク(値動きの幅)も大きくなります。その「リスク幅」を、いちばん実感できるのが、過去のような大暴落が来たときにどこまで下がるか、です。同じ暴落でも、分散しているかどうかで、下がり方はまるで違います。
もし過去の大暴落(リーマンショック級)が来たら(1,000万円を運用中とした場合の試算イメージ)
分散が効いていない配分
分散した配分(GPIF型の目安)
※過去の大暴落(リーマンショック級)の各資産クラスの指数実績にもとづく試算イメージです。同じ1,000万円でも、分散していれば下げは浅くなります。実際は所有者様の配分で相談時に試算します(STEP④)。過去の実績は将来の成果を保証しません。
世帯まるごと —— 一生のお金の流れで見る
ここまで、1つの物件、そして資産全体のバランスを見てきました。
最後に、それらを「世帯の一生のお金の流れ」の中に置き直します。
物件も資産も、家計・ご家族の将来まで含めた1枚の表に載せると、意味がまるで変わって見えてきます。
世帯の純資産が、この先どうなるかを数字で追う
相談では、世帯の収入と支出を1年ずつ並べた表をつくり、そのいちばん下の行——純資産総額(資産から負債を引いた、正味の財産)が、これからの年々どう動くかを数字で追います。今いくら、退職のころいくら、老後いくら。ここが増え続けるのか、どこかで目減りするのかが、数字ではっきり見えてきます。
物件を持ち続けるか、売って組み替えるか——純資産で比べる
その表を、「物件を持ち続けた場合」と「売って資産を組み替えた場合」の2通りでつくって、純資産総額を並べます。すると、今のマイナスだけを見ていたときとは、違う数字が見えてきます。
世帯の純資産総額は、この先どうなるか(物件あり/なしの比較・イメージ)
| 時点 | 持ち続ける | 売って組み替える |
|---|---|---|
| 現在(40歳ごろ) | 約3,000万円 | 約3,000万円 |
| 退職のころ(65歳) | 約5,500万円 | 約7,000万円 |
| 老後(85歳) | 約7,000万円 | 約9,500万円 |
※一般化したイメージです。不動産の実質利回り(ネット)は年2%前後にとどまりやすいため、純資産で見ると多くのケースで「売って組み替え」が上回り、時間とともに差が開きやすくなります。ただし団信・実物の安心、物件ごとの利回り、売却コスト・税で結論は変わります。実際は相談で、所有者様の数字で年ごとの純資産をつくります(STEP②)。
損切りの額は、複利運用で立て直しできることもある
- たとえば100〜700万円ほどの損を確定して、物件を手放します
(損失額はお客さんと物件によります)。 - すると、毎月1〜3.5万円のマイナスCF(税込持ち出し)が、そこで止まります。
- これまで持ち出していた月1〜3.5万円を、そのまま金融資産に投資し直します。
- 金融資産への投資は複利運用が効くので、確定した損失の立て直しが、15〜20年ほどでできることが多いのです。
逆に、損切りをせずに繰り上げ返済でしのごうとしても、次に見るように実質利回りと借入金利が相殺されるため、根本的な解決にはなりにくいのが実情です。
実質利回り(ネット)は年2〜3%前後になりやすいのですが、その利回りは借入金利(同じく2〜3%前後)とほぼ相殺されます。
さらに、修繕積立金は数年毎に上昇し、固定資産税・都市計画税(固都税)も毎年かかるため、ここに現金を追加で入れても(繰上返済や自己資金の投入)、資産の増えるスピードはあまり上がりません。

持ち続けるメリットが大きい方のケース
- 相続対策
不動産は相続税の評価額が現金より低くなりやすく、借入と組み合わせると、相続財産の圧縮につながります。 - 保険の役割
団信により、万一のときにはローンが消え、家族に無借金の資産を残せます。 - レバレッジの活用
適切な借入コントロールができている場合は、少ない自己資金で資産を持て、金融資産と“掛け算”で伸ばせる余地があります。
※2010年代前半に所有し元本の償却が進み、かつ、 - 物件次第
借入残高が小さい(700万円を切るなど)/立地・購入価格に恵まれ賃料水準の期待が見込め、かつ残債が早く減る物件は、実質利回りが高く、持ち続ける優位が残ります。
不動産マーケットは「所有」より「借りる(資産を固定しない)」ほうにメリット
投資用マンションに限らず、不動産全般で「持つ」より「借りる(資産を固定しない)」ほうにメリットが出やすい——これが、いまの大きな流れです。
ただし、これは恒久のものではありません。金利が上がって金融緩和が通常の状態に戻り、不動産の価格が調整されれば、「持つ」側にメリットが戻る局面もやってきます
。つまり、所有と賃借のどちらが有利かは、時代の空気で一律に決まるものではありません。だからこそ、世間の流れではなく、いま自分の物件がどちらなのかを、数字で確かめる意味があるのです。
年金・教育・為替・運用の見込みも、同じ表の中に
公的年金がいつからいくら入るのか、教育費のピークがいつ来るのか、保険の満期がいつか、為替の想定はどうするか、ポートフォリオ運用益はどの程度見込めるのか——これらもすべて、将来の収入・支出として同じ表に入り、純資産の数字に反映されます。バラバラに考えていたお金が、一つの表の中でつながって見えてきます。
数字を確認し、内容を把握した所有者さんは、ブレなくなる
ここまで、順番に数字を見てきました。振り返ると、こういう流れでした。
- 今の現在地
契約時の条件、今の収支、円で答えられない場所を確認した - この物件の出口
持ち続けるといくら、売るなら収益還元法でいくらと評価されるか見えた - 資産全体のバランス
不動産にどれだけ偏っているか、暴落が来たら何%下がるか見えた - 世帯まるごとの一生
純資産の数字で追うと、所有と組み替え、どちらが自分に合うか見えた
ひとつずつは、小さな確認でした。でもつなげると、「なんとなく不安」だったものが、円で答えられる、はっきりした数字に変わっていきます。
見ていない人
「なんとなく不安」を抱えたまま、毎月の持ち出しだけを見て、動けずにいる
数字で見えている人
出口・資産全体・生涯の純資産まで見たうえで、持ち続けるか組み替えるかを、自分で選べている

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